2025年10月28日(火)開始 2025年11月23日(日)読了
作品情報
タイトル 鍵のない夢を見る
著者 辻村深月
シリーズ
初刊出版社 文藝春秋
レーベル
発売日 2012年5月18日
初刊発行日
書籍情報
出版社 文藝春秋
レーベル 文春文庫 つ-18-3
判型/ページ数 文庫判/272ページ
発売日 2015年7月10日
初版発行日 2015年7月10日
版数 第13刷
発行日 2023年9月30日
定価(本体) 690円
購入日 2025年9月21日
【あらすじ】
直木賞受賞! 普通の町に生きるありふれた人々にふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇。現代の地方の姿を鋭く衝く短篇集。

どこにでもある町に住む、盗癖のあるよそ者の女、婚期を逃した女の焦り、育児に悩む若い母親……彼女たちの疲れた心を待つ落とし穴・・・

詳細は下記の通り。
クリックして詳細を表示(ネタバレ注意!)
仁志野町の泥棒 母との「お伊勢参りバスツアー」で、ミチルはバスガイドが小学校で同じクラスだった律子だと気づく。律子は小学3年生の時にやってきた転校生で、ミチルはクラスの人気者の優美子と一緒に律子とよく遊ぶ間柄になっていた。そんな時、律子の母親が近所の家に入って千円、二千円程度のお金を泥棒をしているということを耳にする。しかし、誰も家に鍵をかけないような平和で閉鎖的な町の大人の人たちは何もなかったことにして、律子とは関係がないことだと律子と遊ぶことを許した。ある日、優美子と律子と買い物に行った書店で、ミチルは律子が消しゴムを万引きしようとしているところに遭遇する。それを注意してからミチルは卒業まで律子とは満足に口を利かなかった。ミチルは律子とは連絡をとることもなく、別の中学、高校に進んだ。高校で同じクラスになった友だちは、中学で律子と仲が良かった。そんな時、校門でその友人と待ち合わせをしていた律子と出会う。律子は優美子の名前や他の友人の名前は覚えていたが、最後までミチルの名前を思い出せないままだった・・・
石蕗南地区の放火 笙子は短大を卒業してずっと地元の公有物件の保険事業を行う職場で働いている。年齢は36歳で婚期を逃した焦りもある。ある日、不審火で消防団の詰め所が家事になった。保険金の現場調査で現地に赴いた笙子はそこで消防団の大林を見つける。大林と笙子は町内の職場同士の合コンで知り合い、大林にしつこく誘われて一緒に横浜に行ってしまったが途中で逃げ出してそれきりとなっていた。笙子は仕事を休んでまで現場の片付けに来ている大林を見て、自分に会うために放火しているのではと疑う。一ヶ月後、大林は公民館の納屋に放火しようとして逮捕された。笙子は大林が自分に一方的に熱を上げ放火までして自分に会おうとしていたことを少し自慢に感じていて、さりげなく親や同僚に話すが、大林の放火の目的は「ヒーローになりたかった」という単純なものだった・・・
美弥谷団地の逃亡者 美衣は陽次という男に「海に行きたい」と言って、ふたりで房総の海に来ていた。美衣は小学生の頃から仲の良かった敦子と小百合がいる。小学校の頃にやっていたキョンシーごっこで、美衣は人間役をさせてもらえたかどうかを今も気にしている。陽次とは高校卒業後に携帯のご近所サイトで出会った。人生観を変えてくれた相田みつをの詩は陽次から教えてもらった。次第に幼児の束縛が強くなり殴ったり蹴ったりするようになり、小百合からも別れるように言われていたが、ふんぎりがつかなかった。しかし、新しい男が気になりだして陽次とは別れる決心をして陽次のDVのことを母に伝えたら、母はすぐに警察に届けるように言って美衣もそれに従った。それを恨んで陽次は母を殺害してしまった。そして海にきていた二人の前に警察が現れて陽次を逮捕した・・・
芹葉大学の夢と殺人 岩手・盛岡のラブホテルの駐車場で若い女性が転落しているのが見つかった。女性は群馬・高崎の高校で美術教師をしている二木未玖、25歳。未玖は、未玖が通っていた芹葉大学の坂下教授殺人事件の容疑者である羽根木雄太の元交際相手だった。未玖と雄太は坂下教授の研究室にいて、飲み会をきっかけに、お互いの夢を語ることで関係を深めていった。未玖の現実的な夢に対して、雄太の夢は本当に夢のような夢だったが、雄太はその能力を疑うこともせずにいつも真剣だった。雄太は夢を追いかけるために今の大学を疎かにし始め坂下教授ともうまくいかなくなって、未玖が卒業して高校の美術教師になっても、雄太は夢もかなえられず大学も卒業できないままだった。未玖と雄太の関係も、雄太から「別れ」を告げられたものの、それは名ばかりの「別れ」でしかなかった。坂下教授が殺された後、行方不明になっていた雄太から連絡があり、未玖は盛岡のホテルに会いに行く。そこで思いが募る雄太に期待をしたが、雄太は相変わらず自分のことばかりだった。未玖はそんな雄太の前で階段から飛び降りる・・・
君本家の誘拐 君塚良枝は、ショッピングモールで、娘・咲良を乗せたベビーカーがなくなっていることに気づいた。混乱した良枝は、支配人に警察への連絡と店内捜査を頼む。誘拐が頭をよぎる。夫に連絡しようとして携帯電話を忘れてきたことに気づき、携帯電話を自宅に取りにに戻る。良枝は26歳で夫・学ぶと結婚してから3年、子どもができないことに日々焦りで悩んでいた。咲良はそんな時にできた子供。しかし、その喜びも夫とは共有できず、産まれたあとの子育ても自分ひとりに負担が圧し掛かってきてきて、次第に「咲良がいなければ」と思ったり、泣きやまない時に手をあげたり、ストレスが溜まっていた。携帯電話を取りに自宅に戻った良枝は、玄関の前にベビーカーを見つけ、家の中には眠る咲良がいた。「私はやってしまった」。育児ノイローゼで大騒ぎしたおかしな母親だと思われないように、良枝は咲良とベビーカーを車に乗せてショッピングモールに戻ってある画策をしようとする・・・
【感想】
辻村深月の作品はいくつか読んだり、映画化された作品も観たりして注目しており、その流れでこの作品も買って読んでみました。

この作品はストーリーの起伏や意外さを楽しむものではなく、人の心の複雑な感情やその動きを観察する作品で、笑えるとか泣けるとかストーリーの意外性を楽しむとか、そういう作品ではありませんでした。自意識過剰と思える主人公が、勝手に自分の判断や行動に自分で振り回されたり、疎外感を感じたりする、どちらかというと、ちょっと心に痛みを感じる物語集でした。冷静な立場で読んでいると、主人公たちの偏った異常な心理状態がわかりますが、自分に置き換えてみれば、そういう考えに陥ることもあるのかもしれないと思ってしまうような普通の感情だとも言えます。自分を中心に置いたり、過剰に評価したり、正義感に陥ったり、自分を守る思考になったり、それは至極当然のことです。

しかし、この作品の主人公たちには共感できなくて、むしろ愚かに感じてしまいます。それが逆にリアリティを感じるところもあります。何が正しいのか、その難しい境界線ではこの作品の登場人物のようにまわりが見えなくなってしまうのかもしれません。自分のしっかりとした評価軸での物差しを持つことが大切なのだとあらためて思ってしまいます。

なお、私は文学というものをわかっていない凡人ではありますが、辻村深月の作品の中でこれが直木賞なの?という印象を持ってしまい、第147回の直木賞選評(https://prizesworld.com/naoki/senpyo/senpyo147.htm)を読んでしまいました。◎と△とで評価の別れる作品だったということはわかりました。この作品は、少しずつ読む形だと印象が弱くて忘れてしまうことも多く、読むときにそれまでの内容を思いだすのに時間がかかってしまったように思います。この作品の主人公の感情はあまり心に強く残りませんでした。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。