2026年6月27日(土)開始 2026年7月10日(金)読了 (5日 6時間12分)
作品情報
タイトル 黒猫館の殺人
著者 綾辻行人
シリーズ 「館」シリーズ
初刊出版社 講談社
レーベル 講談社
発売日 1992年4月1日
初刊発行日 1992年4月
書籍情報
出版社 講談社
レーベル 講談社文庫 あ-52-25
判型/ページ数 文庫判/464ページ
発売日 2014年1月15日(新装改訂版)
初版発行日 1996年6月15日(旧版)
2014年1月15日(新装改訂版)
版数 新装改訂版第32刷
発行日 2025年4月2日
定価(本体) 920円
購入日 2026年6月12日
【あらすじ】
推理作家・鹿谷門実(ししやかどみ)は、記憶を失った老人・鮎田冬馬(あゆたとうま)から「自分が何者なのか調べてほしい」という奇妙な依頼を受けた。唯一の手がかりは彼が自ら書いたと思われる「手記」。そこには「黒猫館」で彼が遭遇した奇怪な事件の顛末が綴られていた。しかも事件が起きたその屋敷とはあの建築家中村青司の手になるものだった。鹿谷門実と江南孝明(かわみなみたかあき)は、東京から札幌、そして阿寒へと向かう。深い森の中に建つその館で待ち受ける、“世界”が揺らぐような真実とは!?・・・

詳細は下記の通り。
クリックして詳細を表示(ネタバレ注意!)
プロローグ
1990年7月8日(日)
北海道・阿寒
鹿谷門実、江南孝明、鮎田冬馬の三人は北海道・阿寒にある館の前にいた・・・
第1章 鮎田冬馬の手記
その1
この手記は、鮎田冬馬自身のための手記である。ここに記すのは、今から1ヶ月前の1989年8月1日から4日にかけて、「黒猫館」と呼ばれる屋敷で起きた事件の記録である。
8月1日(火)、黒猫館に4人の大学生の客が訪れた。「黒猫館」の持ち主の息子・風間裕己、その従兄・氷川隼人、裕己の友人・木之内晋と麻生謙二郎である。
第2章 1990年6月
東京
1990年6月25日(月)、稀譚社に勤める江南孝明は、1年前の「時計館」での大量殺人事件に巻き込まれた影響で、文芸書の編集部に移っていた。そこに、担当となっていた鹿谷門実宛ての封筒を見つけた。差出人は鮎田冬馬という人物で、記憶喪失になって自分が誰かわからないので「迷路館の殺人」を書いた鹿谷に調べてほしいという依頼だった。その手がかりは、鮎田自身が書いたと思われる手記だった・・・
第3章 鮎田冬馬の手記
その2
8月2日(水)、前夜遅くまで飲んでいた若者は朝が遅かった。正午すぎ、風間と木之内は、鮎田に車を借りてドライブに出かけ、「黒猫館」の前の持ち主・天羽辰也に興味を持っていた氷川は、天羽の蔵書が保管されている大広間を見学することにした。午後7時を過ぎ、風間と木之内は、椿レナという娘を連れて館に戻ってきた。その夜、鮎田は、屋根裏から大広間で繰り広げられていた痴態を見てしまう・・・
第4章 1990年6月
東京〜横浜
6月28日(木)の夜、鹿谷と江南は、鮎田の手記を読み終えていた。書かれていた内容が真実なのか、黒猫館はどこにあるのか、まずそれを確認しようとふたりは、黒猫館を建てた中村青司の恩師・神代教授を訪ねた。そこで神代は天羽の友人であることが判明する。そして、黒猫館にも一度だけ招かれたことがあるという・・・
第5章 鮎田冬馬の手記
その3
8月3日(木)の朝、不快な気分で目を覚ました鮎田は、サロンの掃除を終えた後、昨夜若者たちが痴態を繰り広げていた大広間の扉が開かないことに気づく。正午を過ぎても誰も出てこなかったので、彼らの部屋を調べていた時に、大広間から叫び声が聞こえてきた。大広間の扉を開けさせると、そこにはレナの死体があった。誰かがレナの首を絞めたらしいが、酒とドラッグのせいで誰もよく覚えていないという。この事件を隠すことで話がまとまり、死体は地下室に置くことにしたが、その地下室には古い白骨死体があった・・・
第6章 1990年7月
札幌〜釧路
7月5日(木)、手記に書かれていた昨年「黒猫館」で起きた殺人事件の謎を追って、鹿谷と江南は北海道に向かった。「黒猫館」に泊まった若者の消息は、風間は事故死、氷川は居所不明、木之内と麻生は大学もわからず調べる手立てがなかった。天羽については、神代教授からの追加情報で、天羽は自分のことを「鏡の世界の住人だ」と言っていたという。翌7月6日、ふたりは天羽が20年前に助教授をしていた大学を訪れる。そこで、天羽を知る橘てる子教授から天羽の当時の話を聞く。天羽が「鏡の中の住人」と言った意味は、天羽は全内蔵逆位症だったということだった。7月7日釧路に向かい、そこで鮎田と合流し、翌7月8日の朝、三人は「黒猫館」のある阿寒に向かった・・・
第7章 鮎田冬馬の手記
その4
8月4日(金)の朝、麻生だけがサロンに顔を見せなかった。部屋ではシャワーの音がしていたという。不審に感じて浴室の扉を力づくで開けた中では、首を吊った麻生の姿があった。部屋のテーブルには「昨日の夜、あの女を殺したのは僕でした」と書かれた便箋があった。密室だったこととこの遺書らしきもので、自殺としか考えられない状況だった。『椿レナはこの屋敷にやってこなかった。麻生は個人的な悩みが原因で自殺した』、そういうことにしておけば良い、それが一番良いのである・・・
第8章 1990年7月
阿寒
建物の中に入った鹿谷と江南は、手記に書かれたこととの矛盾に徐々に気づいていく。鮎田も館内を見ていく中で表情や態度に変化が現れていた。そして、この阿寒の館は「黒猫館」ではなく、事件が起きた「黒猫館」は思いがけないところにあるということと、鮎田の正体が明かされる・・・
エピローグ
失われた手記
鮎田の書いた二冊目の手記。ホテルの火災で燃えてしまったそのノートには、レナの死因と、麻生が死んだ密室事件の真相が書かれていた・・・
【感想】
綾辻行人の「館」シリーズの第6作目となる作品です。この作品は「新装改訂版」という形でオリジナルの作品を文章面で手を入れた作品の最後となります。以降の「暗黒館の殺人」からは「新装改訂版」の予定は無いとのことです。また、「館」シリーズは第5作目の「時計館の殺人」で第1期終了と作者はあとがきで述べています。なので、この「黒猫館の殺人」は第2期の最初の作品となるわけですが、第7作目の「暗黒館の殺人」の発表が「黒猫館の殺人」発表から8年後ということもあり、この「黒猫館の殺人」が読み手としては一区切りの作品という位置づけになります。

この作品も面白くて引き込まれて行く作品でした。舞台は中村青司が設計した「黒猫館」。「時計館」で起きていた大量殺人事件と同時期に「黒猫館」で起きていた殺人事件の話となります。時間軸の舞台はその1年後となります。鮎田冬馬という人物がホテルの火災により記憶喪失になり、1年前に黒猫館で起きた出来事を鮎田が書いたと思われる手記を手掛かりに、ミステリー小説作家の鹿谷門実と鹿谷の担当編集者となっている江南孝明が、自分が誰であるかを調査してほしいという鮎田の依頼によって、事件の真相に迫っていくという構成となっています。

物語は、その鮎田の手記で1年前の事件を語っている章と、現在の鹿谷と江南の調査の状況の章が交互に描かれて行きます。このあたりの構成は、「館」シリーズならではの場所や時間軸の違いによる並行展開となっていて、そこに読者を騙す仕掛けが隠されています。

この作品は、最初から多少の違和感を感じる仕掛け(伏線)が多々あります。会話の内容の意味がよくわからなかったり、会話の不自然さがあります。しかし、だからといって、最後の真実が予想できるかというとまったくそうではありませんでした。真実がわかればこんなに多くの伏線があったのかと思えますが、それを知らずに読んでいると、それが伏線だとはわからず違和感だけにとどまり、途中で真実がわかるということはありませんでした。わざと伏線を多くして見破られるならば見破ってみなさいという自信みたいなものを感じます。

私が黒猫館の正体を明確に感じたのは、終盤も終盤の第8章で、阿寒で鹿谷と江南が建物に入って二階へあがる階段の位置が示された時でした。たった一年しかたっていないのに館の荒廃の仕方が合わないのも違和感を感じましたが、明確にそうかと思えたのは階段の位置でした。それまでは、あんなに伏線があったにもかかわらず、阿寒の館が事件現場だと思い込んでいましたので、「またやられた」という満足感のある敗北感でした。

真実がわかって読むと、不自然に感じた伏線群は明らかに自然なことで納得できます。伏線張り巡らせすぎだろうと思いますが、それで気づかない私は鈍感なのかなと落ち込んでしまいそうです。黒猫館における会話の不自然さとトリック、元の持ち主である天羽の全内蔵逆位症だったというヒント、鮎田と天羽の名前の関連性、巧みに隠されていながらも、あまりにも大胆な記述、すべてしてやられました。そういう面では、良い意味でちょっと異質な「館」シリーズの作品だったかなと思います。

伏線で早くにトリックを見破った人は物足りない作品だったかもしれませんが、私はしっかりと楽しめた作品でした。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。