2026年6月6日(土)開始 2026年6月7日(日)読了 (2日 5時間43分)
作品情報
タイトル 人形館の殺人
著者 綾辻行人
シリーズ 「館」シリーズ
初刊出版社 講談社
レーベル 講談社ノベルス
発売日 1989年4月1日
初刊発行日 1989年4月
書籍情報
出版社 講談社
レーベル 講談社文庫 あ-52-21
判型/ページ数 文庫判/496ページ
発売日 2010年8月12日(新装改訂版)
初版発行日 1993年5月15日(旧版)
2010年8月12日(新装改訂版)
版数 新装改訂版第45刷
発行日 2026年4月17日
定価(本体) 940円
購入日 2026年5月20日
【あらすじ】
父が飛龍想一に遺した京都・北白川に建つ屋敷は、顔のないマネキン人形が邸内各所に佇(たたず)む「人形館」。街では幼い子供に対する残忍な通り魔殺人が続発し、想一自身にも姿なき脅迫者の影が迫る。彼は旧友・島田潔に助けを求めるが、破局への秒読み(カウントダウン)はすでに始まっていた・・・

詳細は下記の通り。
クリックして詳細を表示(ネタバレ注意!)
プロローグ 島田潔からの手紙 1987年6月30日に書かれた飛龍想一宛ての島田潔の手紙の文面・・・
第1章 七月 画家の飛龍想一は育ての母・沙和子とともに静岡から京都にある父の屋敷に引っ越してきた。父は、妻であり想一の実の母・実和子が28年前に死んだあと、ひとりでその屋敷で暮らしていた。屋敷の一部は緑影荘というアパートに改築され、アパートには3人の住民と管理人夫妻が暮らしていた。その屋敷には父が作った不完全なマネキン人形が屋敷各所に6体置かれていた・・・
第2章 八月 アパートの住民は、管理人・水尻夫妻、小説家・辻井雪人、大学生・倉谷誠、盲目のマッサージ師・木津川伸造の5人。その屋敷で暮らし始めた想一は、近くの喫茶店「来夢」に足を運ぶ以外は、たいがい屋敷で過ごしていた。8月16日送り火の日、北白川疎水で5歳の男の子の他殺死体が見つかる・・・
第3章 九月 9月20日、「来夢」で想一は静岡での幼馴染・架場久茂と出会う。架場は京都の大学で助手をしていた。その4日後の朝刊に、銀閣寺近くの法然院で6歳の女の子の他殺死体が見つかったという記事を目にする。その頃、想一も何かの気配を感じるようになってきており、そんな時に想一がアトリエとして使っていた密室の土蔵で、赤い絵の具が塗られたマネキンを見つける・・・
第4章 十月 10月に入ると、想一は心の中に、ある情景が断片的に現れるようになっていた。想一は、密室のアトリエで起きた事件から、戸締りや施錠に神経を使うようになっていた。そんな時、想一は郵便受けに入っていたガラス片で怪我をしたり、自転車のブレーキが壊されて転倒してしまうという目に遭う。そんな状況を想一は架馬にすべて話し、自分が狙われているらしいと話す・・・
第5章 十一月 想一は密室状態だった土蔵でなぜあんなことが起きたのか考え続けていたが、そんな時に差出人不明の手紙が想一に届く。それは「思い出せ。お前の罪を・・・近いうちに楽にしてやる」という殺人予告状めいた内容だった。11月11日、相談するために架場の研究室を訪れた想一は、そこで道沢希早子という大学生と出会う。3人で会話するうちに、想一の心の中の情景が明確になっていく。それは列車の転覆事故の情景だった。そして、11月16日の午前3時半頃、沙和子の寝ている座敷から火の手があがった・・・
第6章 十二月 火事によって沙和子は死んだ。想一は放火を疑うが、施錠を念入りにしていたために犯人へたどり着けなかった。また「母親の死も、お前のせいだ・・・充分苦しむがいい」という手紙が想一のもとに届いた。12月13日、焼けてしまった実家の門柱の袂で、島田潔からの手紙を見つける。静岡から転送されてきたものが野ざらしになっていたらしい。その日の夕方、「来夢」で偶然会った希早子との会話の中で、吉田山の林の中で小学校2年生の男の子の絞殺死体が見つかったことを知る。帰宅後、あらためて島田の手紙を読んだ想一は12月14日、島田に連絡を取る意思を固めたが島田は不在だった。12月20日、自分の作品を見せる約束をした想一は希早子をアトリエに迎える・・・
第7章 一月(1) 想一は希早子に惹かれるようになっていた。そのために、どうなってもいいと思っていた脅迫者に対する感情は恐れの感情に変ってきていた。1月6日、島田からの電話を受けた想一は、すべてを話して島田の考えやアドバイスを得ようとした。その会話の中でマネキンの向きに意味があるのではということに気づき、翌日、全マネキンの視線の先に、埋められた完全な形のマネキンを見つけた。それはまさしく想一の実母・美和子を再現したものだった。電話をかけてきた島田に、想一は母への思い、母を死なせてしまった事故について吐露する。その夜、辻井雪人は神社の境内で男の子を殺したところを誰かに見られる。一週間後、島田から、想一のいたずらによって転覆した列車の被害者の苗字が、アパートの住民と管理人と同じだったという驚愕の真実を聞かされる。想一はその日また「もう一人のお前を見つけた」という手紙を受け取る・・・
第8章 一月(2) 1月16日の夜、辻井が部屋の浴室で殺された。辻井の部屋は施錠されており、辻井の部屋に行くには想一の部屋の前を通る必要があり、想一が誰も見ていないことから、自殺と断定された。遺書はなかったが、手記が見つかり「小説が書けないのはうるさい子供のせいだと思い込んで殺すに至った」と書かれていた。1月20日、「来夢」で想一は辻井の事件の経緯を希早子に話した。希早子は脅迫者も辻井だったのではないかと言う。しかし想一のもとにまた「もう一人のお前は殺した・・・次こそ、お前だ」という手紙が届いた。島田からの電話に対し、想一は「来てください」と懇願する。1月28日の夜遅く、希早子が大学から帰る途中、誰かに襲われる。殺されようとする寸前、希早子は島田と名乗る男に助けられる・・・
第9章 一月(3) 1月29日、「緑影荘」に向かう男がいた。その男は「緑影荘」の住民に、自分は想一の友人・島田潔と名乗った。想一のアトリエである土蔵で、島田は今回の事件について秘密の抜け穴を利用した犯行であり、アトリエにやってきた架場におまえが犯人だと言う。架場は想一が昔殺してしまった男の子の弟でありその復讐だと。しかし、それを聞いた架場は、それを覆す驚きの真実を島田に告げる・・・
第10章 二月 2月1日、「来夢」で希早子と架場が事件の真相について話している。架場はひとつの解釈として、飛龍想一の多重人格、そして島田潔の存在の真相について語る。しかし、希早子のある問いかけに対して、架場は明確には答えないのだった・・・
エピローグ 島田潔からの手紙 1988年2月7日に書かれた架場久茂宛ての島田潔の手紙の文面・・・
【感想】
綾辻行人の「館」シリーズ第4作目です。面白くて、ほぼ一日で読み切ってしまいました。第5作目の「時計館の殺人」と合わせて、これで「館」シリーズを読むのは5作品となりますが、この「人形館の殺人」は、他の作品と大きく異なっており、シリーズの中では異色作でした。

物語の構成は、”私”と言う一人称の飛龍想一の文章と、想一の心に隠れた情景表現と、誰かよくわからない人間の想一に対する憎しみ表現で成り立っています。最初は”私”の文章が多いですが、徐々に情景表現が増え、さらに憎しみ表現が増えていきます。

情景表現は何をあらわしているのか、憎しみ表現は誰の心の中のものなのか、それが大きな謎となって進みます。また、屋敷である人形館とは関係なさそうな、幼い子供の連続殺人事件が起きるのですが、この事件との関係もどうつながるのか気になります。そしていよいよ、人形館での殺人が起きるのですが、その被害者は”私”の育ての親である池尾沙和子であり、現場は密室となっており、事故という判断が下されます。

密室と言うと、「館」シリーズでは中村青司の建てた館のからくりが関係するという期待がわいてきます。そして、いつ登場するのかという島田潔も電話越しながら登場して、いよいよいつもの「館」シリーズだと思わせるのですが、実はこの作品は、いつもの「館」シリーズと思わせる諸々が、読者をミスリードするものなのでした。

結論を言うと(ネタバレになります)、この「人形館の殺人」は、『島田潔は登場しません』、『館が中村青司が携わった建物ではありません』。なので、結末は、”私”の異常性という結末になっています。騙された感はありますが、あまりスッキリしたものではありません。見事にしてやられたという思いはあるものの、その騙され感が期待していたところとずれているので、ガッカリ感を感じてしまうところがあります。そこがこの作品の異色なところであり、「館」シリーズとして好き嫌いのわかれるところかなと思います。

しかし、そういうところがすごく新鮮な感じがしたのも事実です。第4作目で、ここまで今までの形を壊してくるというのは、さすがという感じがします。読者を騙す内容が異色だというだけで、最初に登場人物と館のレイアウトをしっかりと読者に理解させ、そこから不穏な事件が起きるというわかりやすい構成は、「館」シリーズそのものです。そして、長編にもかかわらずとても素直にストーリーに入り込むことができる作品だという点では、他の作品と変わりありません。

なお、『島田潔は登場しません』と書きましたが、物語の中では”島田潔”は電話越しや最後に人物として登場します。その”島田潔”の正体はなんだったのかというところが、ひとつの面白さでもあります。

ラストは少し不穏な感じで終わっています。希早子が架場に問いかけた疑問に架場は明確に答えていません。つまり、架場は、真実を早い段階で知っていながら、兄を殺した想一に対して自己破滅を待っていたということなのだと思います。

とても面白くて謎を楽しめる作品でしたが、いろんな面で良い意味での「館」シリーズでの意外性が際立つ作品でした。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。