2025年3月7日(金)開始 2025年3月9日(日)読了
作品情報
タイトル 大聖堂の殺人 〜The Books〜
著者 周木律
シリーズ 「堂」シリーズ
初刊出版社 講談社
レーベル 講談社文庫
初刊発行日 2019年2月15日
書籍情報
出版社 講談社
レーベル 講談社文庫 し-111-7
判型/ページ数 文庫判/624ページ
初版発行日 2019年2月15日
版数 第1刷
発行日 2019年2月15日
定価(本体) 1040円
購入日 2025年3月5日
はまってしまった周木律の「堂」シリーズの最終章である「大聖堂の殺人」620ページ強を3日間7時間40分ほどで読み終わりました。

「天皇」と称されている大数学者・藤衛により、宮司百合子と善知鳥神は、北海道の孤島・本ヶ島にある大聖堂に招かれた。その場所は、24年前に宮司家の両親が命を落とし、百合子も神も十和田もいた場所だった。大聖堂には数学者4名と立会人2名、そして大聖堂の管理人・十和田只人がいて、160km離れた襟裳岬で行う藤衛のカンファレスでの講演を遠隔会議システムで聴くという内容だった。到着翌日、講演が始まると、休憩時間のたびに順次4人の数学者が残忍な形で命を落とすという事件が発生した。その間大聖堂は密室になっており、藤衛は襟裳にいて殺人は不可能、死因も焼死に凍死と不可解、誰がどういう形で殺人を起こしたのか、そして24年前の事件の真実は・・・というストーリーです。

単体の建築物トリックのミステリー小説かと思って読み始めた「堂」シリーズですが、こんなに謎のつながる壮大な物語とは知りませんでした。第3弾の「五覚堂の殺人」までは登場人物のつながりはあるものの、単体ミステリーと思い込んで読んでいて飽きを感じ始めていたのですが、第4弾「伽藍堂の殺人」を読んで、主要人物の扱いがガラッと変わってきたことで、これは20年以上前に起きた事件の真相を明かしていく大大長編なのだと気付いてからは、最後まで一気に読みたくなる要求が盛り上がってきました。この「大聖堂の殺人」での長い謎の結末は、私としては物足りなく、ちょっと消化不良でしたが、ここまで長く興味を持続させる作品の構築はとても素晴らしいと感じました。

結末の物足りなさの理由は、大聖堂のトリックがちょっと無理があるかなというのがひとつ。周りに気づかれずに海洋を移動というのは、さすがに無理があるような気がします。海上保安庁なり、航行している船などに気づかれるような気がします。他にも、十和田只人の藤衛に傾いた心理も腹におちません。十和田はもっと理知的であったはずなので、あえてそういう行動をしていたという結末にしたほうが納得できます。大聖堂の焼死と凍死のトリックも、理屈はわかりますがあの量の水の増減を短期間に内部の人間に悟られずにできるとは思えませんでした。そして最後に善知鳥神が意識を失った理由もよくわかりませんでした。というように、この第7弾「大聖堂の殺人事件」のトリックや結末はわからないことが多く、ちょっと無理やり感を感じてしまいました。

ラストは、思いがけない周木律の正体と「堂」シリーズの刊行背景が明かされますが、もちろんそれはフィクション。なかなか面白いお遊びで、暗く重い事件の結末を未来を感じる明るい終わり方にしているのは救いでした。

以下は「堂」シリーズ全体のおさらいです。(ネタバレ防止のため、犯人等の情報は割愛)
「堂」シリーズは第7弾までのシリーズですが、各作品に特徴や設定の違いがあって、すべて読み終わっても、タイトルと内容が明確に内容と結びつき記憶に残っているのはすごいことだと思います。

第1弾「眼球堂の殺人」は、1998年の秋に建築家・驫木煬の建物で起きた事件。探偵役の十和田只人と、アシスタント役の陸奥藍子のコンビが眼球堂の謎を解き明かすのはとても面白かったです。ただ、最後に、陸奥藍子が善知鳥神であることが明かされ、不穏な感じで終わります。主な建物トリックは「水平回転」。

第2弾「双孔堂の殺人」は、1999年9月に数学者・降脇一郎の建物で起きた事件。この事件で宮司司が主役的役割で登場。十和田只人が犯人扱いで捕まるという驚きの展開。途中で無実とわかり謎解きで活躍。のちに主役となる宮司百合子が十和田ファンとして登場。善知鳥神は双孔堂使用人として登場。主な建物トリックは「見えない階」。

第3弾「五覚堂の殺人」は、2000年4月に哲学者・志田幾郎の建物で起きた事件。宮司百合子が主役的役割で登場、大学友人の実家・志田家の遺産分与の集まりに参加して事件に遭遇。1977年の志田家家政婦殺人事件が発端の悲しい事件。十和田只人と善知鳥神は、同じ堂にいるにもかかわらず、時間差で事件を体験しながら謎を解いていく不思議な設定。主な建物トリックは「建物の数」。

第4弾「伽藍堂の殺人」は、2000年7月に宗教集団BT教団の施設で起きた起きた事件。宮司百合子と善知鳥神の接近が見どころで、宮司百合子が謎解き。犯人は意外なふたり。1978年の大聖堂の殺人事件で死刑囚となっていた宿敵・藤衛が再審無罪で釈放されて初めての事件で、藤衛の姿が見え隠れする。藤衛を崇拝する十和田只人のキャラクターがこの事件から激変し脇役的存在になる。主な建物トリックは「垂直回転」。

第5弾「教会堂の殺人」は、2000年末に大数学者・藤衛の建物で起きた事件。この作品は悲劇的で胸が痛くなる作品。おなじみの主要な登場人物たちが犠牲になっていく殺人輪廻はあまりにも衝撃的。この作品から宮司百合子が完全に主役で、善知鳥神は宮司百合子を守る存在となっていく。ラストシーンはあまりにも悲しいシーン。主な建物トリックは「究極の選択」。

第6弾「鏡面堂の殺人」は、1975年12月に建築家・沼四郎の建物で起きた事件。その事件の26年後の2001年に廃墟となった鏡面堂において、善知鳥神と十和田只人の前で、宮司百合子がその事件の当事者である「わたし」の手記を読んで謎を解き明かしていく。その「わたし」の正体は運命的な人物。鏡面堂は一連の建物の設計者である沼四郎の最初に設計した建物。この作品で、26年前ではあるが藤衛が実像として初めて登場。主な建物トリックは「金属特性」と「水平回転」。

第7弾「大聖堂の殺人」は、2002年6月に大数学者・藤衛の建物で起きた事件。ただ、28年前の1978年にも大聖堂で数学者4人が殺害され、宮司家族、善知鳥母子、十和田只人も建物破壊により大切な人を亡くしている。今回も数学者4名が殺害されるが、宮司百合子と善知鳥神が28年前の事件の真実(十和田のかかわりも含めて)と今回の謎を解き明かし、長い藤衛との因縁に決着をつける。洗脳されていた十和田只人は、ふたりによってもとの十和田に戻る。主な建物トリックは「移動」。

全体を通して数学も主役。「リーマン予想」の証明を巡る争いや敵をゼロに落とす(殺す)ことが、殺人の動機となっている。難しい話が展開されて読むのを放棄したくなるところもあるが、理解できなくても大きな流れに支障はない。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。