2025年3月3日(月)開始 2025年3月3日(月)読了
作品情報
タイトル 伽藍堂の殺人
〜Banach-Tarski Paradox〜
著者 周木律
シリーズ 「堂」シリーズ
初刊出版社 講談社
レーベル 講談社ノベルス
初刊発行日 2014年9月
書籍情報
出版社 講談社
レーベル 講談社文庫 し-111-4
判型/ページ数 文庫判/448ページ
初版発行日 2017年9月14日
版数 第1刷
発行日 2017年9月14日
定価(本体) 800円
購入日 2025年2月20日
数学の話が難しくてまったく理解できないし、堂のトリックも少し飽きてきたかなと思い始めていた周木律の「堂」シリーズですが、なんとなくまた次を読みたくて第4弾である「伽藍堂の殺人」を買ってきました。

ある日、宮司百合子のもとにリーマン予想解決にかかわる講演会の案内が届いた。開催場所は、かつて謎の宗教団体・BT教団の施設だった伽藍島。主催者の名前から妹の危険を感じた百合子の兄・宮司司は妹に付き添って伽藍島に向かう。伽藍島には伽堂と藍堂というふたつの館があり、講演会には、数学者・十和田只人、天才・善知鳥(うとう)神も招かれていた。講演が行われた夜、講演者の数学者ふたりが行方不明になり、不可能と思われる瞬間移動と悲惨な形態で遺体が見つかる。閉じた島での殺人者は誰か?・・・というストーリーです。

この、堂シリーズ第4作「伽藍堂の殺人」を読んで、この「堂」シリーズの広がりにいまさらではありますが気付きました。毎回の堂を題材にしたトリック殺人事件の面白さだけではない。十和田只人が主人公の探偵モノでも無い。ということがわかってきました。主な登場人物である十和田只人、善知鳥神、宮司兄妹(司、百合子)それぞれに対して、数学者藤衛や建築家沼四郎との複雑な関わりがあって秘密が隠されている。それが「堂」シリーズ全7作で徐々に明らかにされていって、第7作でそれまでに張り巡らされた謎の布石がすべてつながって明らかになっていくという、大きな流れがあるのだということが明確にわかってきました。この「堂」シリーズの面白さは、個々で完結した堂をめぐる殺人事件トリック、作品全体を通した大きな人のかかわりの秘密の両方だということです。

第3作の五覚堂の密室トリックは少し納得がいかない部分がありましたが、今回の伽藍堂の回転トリックは最後まで予測不能でありながら、あり得るかもしれないと思わせてくれる壮大なトリックで説得力がありました。その大胆な発想と緻密なしくみに感心してしまいました。また、十和田の推理により犯人を善知鳥神だと言わせておいて、その後に百合子によってまさかの犯人があぶり出されるという結末も驚きました。十和田が謎解きの主人公であると思い込んでいたこのシリーズの常識が覆ってしまいました。宮司司がその人物に対して、最初から今回はいつもと違うと感じていたことにもつながります。犯人の動機はまだ完全に明らかにされていないですし、その真実や背景もよくわかりませんので、その謎が今後の作品への期待となります。思っていた主要人物のキャラクターが各作品で変化していくので、読む側は意外さに戸惑い、その秘密の理由を知りたくなります。建築物の仕掛けによる殺人トリックの面白さに、キャラクターの秘密への興味が加わって次作への期待が大きくなってきます。この「堂」シリーズのそんな奥深さに気づかずに、数学の小難しい話も多いし建築物のトリックの繰り返し(新鮮味はあるけど)なので2作目・3作目でお腹いっぱい、と思ってしまった自分が愚かしいです。次の作品(第5作・教会堂の殺人)を絶対に読みたくなりました。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。