2026年8月9日(日)鑑賞 イオンシネマ岡崎(スクリーン9 D-8)
2026年7月31日(金)公開 / 上映時間:138分 / 製作:2026年(日本) / 配給:東京テアトル
【監督】 石井裕也
【キャスト】
 宇治田洋一:池松壮亮 / 樺島茂雄:仲野太賀 / 村井和正:岩田剛典 / 高城源一:中村蒼 /
 峯岸草一:三浦貴大 / 宇治田小百合:二階堂ふみ / 宇治田英二:杉田雷麟 /
 宇治田一郎:渡辺いっけい / 武藤章:中野英雄 / 井川忠雄:別所哲也 / 近衛文麿:北村有起哉 /
 鈴木貞一:嶋田久作 / 昭和天皇:松田龍平 / 木戸幸一:奥田瑛二 /
 宮本達夫:笠原秀幸 / 前島俊樹:前野朋哉 /
 板倉大造:國村隼 / 瀬古明:佐藤隆太 / 西村良穂:江口洋介 / 東条英機:佐藤浩市
【あらすじ】
1941(昭和16)年4月、真珠湾攻撃の8ヶ月前。官僚・軍・民間から選りすぐられた若きエリートたちが、内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」に招集された。彼らに与えられた任務は、“模擬内閣”を結成して日米が開戦した場合の戦局をシミュレーションし、その結果を内閣に報告すること。宇治田を始めとするメンバーたちは、国家機密レベルのデータを駆使した激烈な議論の末、「日本必敗」という衝撃的な結論にたどり着く。しかしエリートたちが導き出した敗北の予測は、時代が放つ得体の知れない空気にのみこまれていく・・・
【感想】
この作品は、猪瀬直樹のノンフィクション小説「昭和16年夏の敗戦」を原案としており、1991年にフジテレビでドラマ化されています。2025年には、NHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」として、ドラマパート、ドキュメンタリーパートで放映されました。今回の「開戦前夜」は、そのドラマパートを完全版(約40分を追加)として映画化されたものです。日本の戦争をいろんな視点でとらえておきたいので良い機会だと思って観てきました。なお、私は、NHKスペシャル「シミュレーション〜昭和16年夏の敗戦〜」は観ていません。

とても興味深い内容で、2時間20分近い長さでしたがその長さをまったく感じさせない映画でした。この映画で表現されていることがどこまで真実かはわかりませんが、「総力戦研究所」の存在は事実のようですし、登場人物も実在の人物が描かれている(一部創作の人物)ので、こういうことがあったことは事実のようです。開戦前に、日本の開戦の影響を理論的に数字でシミュレーションしていたということならば、それは私にとって意外であり、そんな冷静な行動やまともな思考もあったのだと初めて知りました。

その数字に裏付けされた精緻な結論である「日本必敗」が日本の行く末になぜ影響を与えなかったのか、その原因はどこにあるのか、そこも考えさせられます。一般国民も含めたアメリカを討つべしという空気感が日本中にあったのか、戦争をしたいと思った軍人が無理に開戦に進めさせたのか、上官の思いを勝手に察したり上司の思いと異なる行動をとると目を付けられたり圧力をうけたりする部下たちの忖度であり防衛だったのか、いろいろな原因が不幸にも重なっていたのかもしれません。単純に、戦争に血気のはやる軍人によるものだけではない気がします。この映画では、東条英機(佐藤浩市)が戦争ありきの悪者には描かれていません。東条英機は昭和天皇の意思を尊重し戦争を回避しようと努力しており、一部の戦争をすべきという軍人、街中の国民の声に逆らいきれずに開戦に突入したという描き方になっています。東条英機の遺族の声の中にも、戦争を回避できなかったことを昭和天皇に詫びていたということがあるようです。当時の総理大臣・近衛文麿は、開戦を避けようとした動きやその思いはまったく描かれていなくて、逆に無関心で無責任な貴族政治家として描かれています。当時の人物の印象は、戦後に作られた映画やドラマによって作られたものが多く、何が真実なのかは冷静に観ることが必要です。

この物語の主役である若者たち、宇治田や樺島や村井や高城などの軍人・民間人が、数字を見ていくうちに避戦の方向に全員の考えが変わっていく流れは見ものでした。その中で総理大臣役・宇治田(池松壮亮)の冷静さと分析力、そして国の上位者に媚びない信念の強さがとても素晴らしかったです。

開戦に向かってしまったことにどんな原因があったにせよ、一度大きな流れが起きてしまったら、それを止める手立ては無いのではないかという絶望感を強く感じてしまう内容でした。そんな間違った流れが大きな流れにならないように、「戦争は絶対にしない」、「国土が戦火にさらされることはしない」「人の命が最優先」というような絶対的な考え方をしっかりと平和時に万人に対して育てることが重要だと強く思います。ただ、その訴え方が、短絡的に手法論となり「武器は持たない」ということになったり、実態の無い掛け声だけの「戦争反対」という言葉だけにならないようにはしないといけません。今の世界の情勢の現実をしっかりと観た上での対応を考えていくことが大切です。

なお、この映画は、「総力戦研究所」の所長・板倉大造(國村隼)に相当する実在の人物・飯村穣の遺族からクレームがついています。劇中の板倉は東条英機の顔色を窺い、「日本必敗」の結果を抑え込もうとする人物として描かれていますが、実際の飯村氏は開戦に反対した人物であり、事実とまったく異なり名誉棄損であるという訴えです。製作側は「板倉は創作された人物である」ということで、名誉棄損にはあたらないと反論しています。物語では、古い考えの所長と、正義感の強い若者という対決構図としたかったのかもしれません。そういう点をみても、ノンフィクションとはいえ、この映画を観てこれで真実をわかったつもりになるのは危険であるということを教えてくれます。

配役も良かったし出演者の演技も迫るところがあってとても良かったです。映画として見ごたえがありましたし、過去に起きたことからの未来への問題提起も良かったです。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。