2026年5月21日(木)鑑賞 イオンシネマ豊田KiTARA(スクリーン1 G-7/8)
2026年5月15日(金)公開[PG12] / 上映時間:125分 / 製作:2025年(日本) / 配給:アークエンタテインメント
【監督】 吉田光希
【キャスト】
 漆原糾:染谷将太 / 矢倉俊太郎:北村有起哉 / 漆原菊子:瀧内公美 /
 廣末哲万 / 中村映里子 / 内野:中井友望 / 外科医師:吉岡睦雄 / 小清水きくゑ:上岡紘子 /
 岩上武一:六平直政
【あらすじ】
ある町のデイケア「異人坂クリニック」に通うお年寄りの間で、漆原院長(染谷将太)が考案した“画期的な”治療が密かに広まっている。究極のコスパの良い介護を目指すその医療行為は、「廃用身(麻痺などにより、回復見込みがない手足のこと)」をめぐる、従来の常識を覆すものだという。その結果、「身体も心も軽くなった」、「厳しい性格が柔らかくなった」などと予想外の“好ましい副作用”が現れたという。噂を聞きつけた編集者・矢倉(北村有起哉)は、老齢期医療に革命を起こす可能性を感じ取り、漆原に本の出版を持ちかける。しかしやがて、デイケアに関するとある内部告発が週刊誌に流出。さらに、患者宅で起きた衝撃的な事件をきっかけに、すべてが暗転していく・・・
【感想】
この映画は予告を観て「老人の手足を切断する」という衝撃的な内容で気になったのですが、チラシも入手できていなかったし、なんか怖い感じがしていたためにすっかり忘れていました。長女が「廃用身、観に行こうよ」と言ったことで思い出し、長女と二人で観に行ってきました。

最初は、廃用身と呼ばれている麻痺して動かなくなりそれが体の負担になっている手足を切断する治療(Aケア)のスタート、次に、第一例となる岩上(六平直政)の事例内容、という形で始まっていきます。そこで院長である漆原の説得力ある説明や、患者を思う優しさなどが描かれて、観ている側は、その治療はとても有効で素晴らしいものなのかもしれないという思いにさせられます。廃用身を切断することで、手足の痛みや痺れの感覚が無くなったとか、気持ちが前向きになったとか、床擦れが治ったとか、介護の負担が軽減したとか、認知症が改善されたとか、そういう良い事例を見せられると、その思いをさらに強くします。

しかし、寝たきりでしゃべることもできず無反応な夫ともう一度話をしてみたいと、一縷の望みを託してAケアを受けた老夫婦が、その希望もかなわず手足の無くなった夫がベッドに横たわる姿は衝撃的でした。この人の尊厳はあるのだろうかという思いが襲ってきますし、なんのために夫をこんな姿にしてしまったのかと後悔の念に苛まれる妻の姿はとても切なくその思いが伝わってきます。

最初は良い治療なのかも知れないと思っていたAケアに対して、このシーンで頭を殴られたような感じがして、そう思い込まされていた自分に気付いて驚いてしまいました。最初から漆原の話すAケアに違和感を持っていた看護師・内野(中井友望)に対して、感情だけで否定していて論理的に考えられない人物としか感じなかったのですが、最終的には、その感情が一番人間的で大切な感覚だったのかと思わせてくれます。告発した感情も理解できます。

この問題は人間の尊厳や介護問題に奥深くかかわっており、一つの話の流れで判断できるほど簡単な問題ではないと、そこで気付くわけです。

さらに、この治療を自信を持って進めていた漆原が自分の過去の行動を思い出し、自分の頭こそが廃用身だったと悟り、その頭を体から切り離すという行動に至ることで、漆原の優しく老人を思う気持ちも実は歪な性格からきており、素晴らしく感じたAケアは、実は漆原の性格的な欲望を満たす要素もあったのだというように描かれます。そうすると、今度はAケアがそのことで悪者になっていいのかという逆の気持ちが湧き上がってきます。

また、最初の症例患者の岩上に対する息子や妻の態度に対しては、どうしようもないひどい息子と妻だという形で描かれます。しかし、それまでの岩上がとってきた態度に対するしっぺ返しなのかもしれない、介護疲れで息子も妻も疲弊していたのかもしれない、などと考えると、息子や妻の態度も特異なものではなくて世の中によくあることなのかもしれないと思えます。現に、長女に「あの息子と妻はひどすぎるよね」と言ったら、「あれが案外普通だよ」と返されてしまいました。それに、私も自分が母親にとった態度が思い起こされて、そうかもしれないと胸が痛くなりました。

帰路では、娘と「介護されることを考えて体重を落とさないとね、とか、その前に体重を落として健康を保たないとね」とかいろいろと話しながら帰ってきました。

手足を切断とかグロテスクな要素のある映画かなと思って最初はちょっと気持ちが怖がっていた映画でしたが、鑑賞してみると、そんな怖さよりも老後に健康を害した時の生き方というか生かせられ方に怖さを感じる映画でした。自分のこれからの老後の介護される姿をいろいろとシミュレーションしておくことと、どんな状態になっても精神をいかに穏やかに過ごせる生き方をそれまでしていくかということを考えていきたいと思いました。楽しい映画ではありませんが、老後について考えさせてくれる映画でした。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。